『センセイの鞄』   川上弘美(文春文庫)
 面白かった。

 かつての先生と飲み屋で偶然に出会う。

 近所に住んでいることから時々その飲み屋で顔を合わせる。

 特に示し合せることもなく、

隣り合わせになることもあれば、離れたままのこともあり、

お互い勝手に注文し、勝手に飲み、

一緒に帰ることもあれば知らん顔で勝手に帰ることもある。

 勘定は自分の分を自分が払う。

 センセイは、いかにも先生だ。

 堅物、お説教、教えたがり。

 センセイは生徒の時代の私のことをはっきり覚えていたが、

私(教え子、女性)の方は、センセイのことをきっちりと覚えていたわけでは無い。

 飲み屋での隣り合わせを重ねるうちに、

少しずつ、少しずつ二人の関係、気持ちが近づいてくるが、

センセイは堅物のままセンセイであり続け、私の方も教え子のままであった。

 このかつてのセンセイとかつての教え子の、一見淡々と、

しかし、少しずつ、少しずつ、ほんの少しずつ、壁は高いままだが、

高い壁越しに相手が見えて来るそのじれったいまでの、

イライラするほどの経過描写が秀逸である。

 秀逸と言うあまりにも普通の言葉で言い表すことがはばかられるほどの、

女性の、教え子の心の揺らぎを楽しんだ。
 
 なっしーはこんな堅物ではないが、いや堅物で無かったからこそモテなかったのだろう。

 もう少しセンセイらしければモテたかもしれないが、教訓としては残念ながらもう遅い。

 カタブツで素敵なセンセイとかわいい私の物語。

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