BMW欲しくない? その3 (仲良しなの?)
 大学時代の友人が、陶芸家になった。

 文学部哲学科出身。哲学する陶芸家だ。

 卒業旅行で陶芸の町にふと立ち寄り、ある陶芸家が気に入って、

弟子入りを願ったが直ぐには認められない。

 決まっていた就職を取りやめ、喫茶店の雇われマスターをやりながら何年か通い詰めて、やっと弟子入りが認められた。

 それから数年後、自分で小さな個展をやるようになり、何点かなっしーも買って持っていた。

 それをBMWの奥さんに話したことがある。

 『仲良しなの?

 じゃあ、今度連れておいで』

と言われて彼が上京した時に一緒に訪ねた。

 『きれいな手をしているわね』

 あ、まずい。

 『土の捏ね方が足りないんじゃないの?』と続くに違いない、と思った。

 ただ、その時は、

持参した焼き物を見て直ぐに、

甘いね、焼きが

(本人はあえてやっているところがあるようだが、少なくともこの段階では成功していなかったと思う)、

と厳しい指摘があった。

 ただ、そのあとは、どうして焼き物やる気になったのか、とか、

どんな作風を目指しているのか、

といった一般的な話で終わった。

 『うん。銀座でいっぺん個展やろうよ。ちゃんとしたところでさ』

と話がすすんで、奥さんが手配をしてくれることになった。

 彼が帰ったあと、

『銀座でやるんだったら、やっぱり賞が欲しいよね、何が欲しい?総理大臣賞はダメだよ』

と言われたが、次の年、大きな陶芸展で、新人の登竜門の賞をとって、

晴れて銀座で個展を開いた。

 全部売り切れるわけではないので、売れ残ったものは『犬小屋』に運び込んだ。

奥さんが全部買取った。

 『まあまあだったわね、次は何が欲しい?』

 『いや、この世界は良く分かりませんので』

 『上から3つめか4つめくらいので良い?』

 『まだそこまでは行って無いですよ』

 『うん。私もそう思うけど、そのくらいだったら取ってもまるで恥ずかしくはないよね?』

で、次の年、そのくらいの賞を取った。大変な賞だ。

 同じ名前の賞を複数の人が貰う(『以下同文』の賞)のでは無く、その賞を貰うのは一人だけ、そういう賞だ。

 『良かったねぇ。私もうれしいよ』

 こうしてこの年にも銀座で個展を開いた。

 個展の後、お宅にお邪魔したとき、

『何を貰ったの?』と聞かれて

 『あそこに飾ってあった、これこれを買ってやりました』

と答えた。

 『えっ?!

 あの人、先生に売ったの? こんなに恩義のある人に?』

 その後も彼はいくつか賞は取っているが、

銀座の個展は、結局この2回だけだった。

 が、ひょっとしたら、銀座の個展から開放されて、彼はほっとしているかもしれない。

 いや、そうに違いない。
 

※ 最近会っていないので、当時よりずっとよくなっていることと思います。帰国したら会いに行かなくっちゃ。ちょっと不便なところなのでなかなか行けなくって(と言うのは誰でもいつでも使う口実ですが)。 

※※ なっしーの両親もこの友人が大のお気に入りで、息子代わりに可愛がりつつ、売り上げにも貢献したのではないかと思います。
陶芸家として作品自体を他の名の通った人と比べるとやっぱりちょっと足りないのかなと思います。子供の時から触れている人と大人になって触れた人との差でしょか。
これはもうどうにもなりませんね。ごく一部の天才を除いて。
ただ、なっしーより目が肥えているカミさんはかえって新鮮だし、良いと思うよと誉めています。
なっしーは芸術音痴なので。じゃあ、何が音痴じゃないの?と訊かれると、

『… … …』

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