BMW欲しくない? その1
 『何してんの?』

 と時々お茶に誘われる近所の奥さんに声をかけられた。

 東京目黒区の高級と言われる住宅街にある小さなアパートに住んでいた頃の話だ。
 
 駐車場で車の掃除をしていた。普通の掃除ではない。

 割れた後部の窓ガラスを集めて、捨てていたのだ。

 前日、新宿のデパートに長男に着せる物を買いに行った。
 
 買い物が終わり、駐車場ビルから降りて、ちょうど通りに出たところで、

『パーン』と乾いた、ピストルで撃たれたような音がした。

 後ろを振り返ると、後部の窓ガラスが粉々になっていた。

 暴力団抗争の流れ弾かもしれない、と咄嗟に思って大急ぎで車を飛ばして家に帰った。

 妻と長男が乗っていたので気が気ではなかった。

 むろん暴力団抗争でもなければピストルでもなかった。何らかの拍子でバランスが崩れたんだろう。

 小さな傷の積み重ねで時々あることらしいと、後に知った。

 窓ガラスは粉々になって車内に散乱していた。

 ただ家に着いてしばらくテレビニュースを見続けたのは事実だ。

 実際に発砲事件が時々あったころの話だ。

 次の日、この粉々に割れた窓ガラスを片付けていたところだった。

 『ええ~っ? 大変だったじゃない。ちょっと家においでよ』

と誘われてお宅に伺った。

 『怖かったでしょう? 何? あのダメな車。A自動車?

 そんな車危なくってダメだから、新車に換えようよ』

 『えっ! そんな、お金ないですよ』

 『な~に言ってんのよ。そんな危険な欠陥車売った方が悪いのよ。だから責任を取ってもらうの。ベンツ? 若いからBMWが良いかな?』

 『いやいや。とんでもない。でも正直、修理費くらいは欲しいところだけど』

 『欲が無いのねぇ。じゃあ、ちょっと私が話をしてあげる』

と言ってA自動車の本社に電話を入れた。

 話が分かる人を出せ、と言ったら営業第何部かの部長が出てきた。日曜日なので、この人が一番上だった(と電話では言っていたそうだ)。

 『あんたじゃ、話が通じないから明日ね』

と言ってその場は終わった。

 『私はお付き合いがあってB自動車にしか乗れないけど、あなたは自由なんだから、

こんな危ない車やめて、窓の割れないベンツかBMWにすればいいのに。

大事な坊やが傷ついたらどうするの? 少なくとも新車よね』

と言われたが、

 『いえいえ。元通りになればそれで十分です』と答えた。

 結局無料修理+30万円の和解金で決着した。

 当然、双方の弁護士が間に入って示談書が作成されていた。

コメント

思惟
思惟
2010年12月22日18:03

こんにちは。
お気に入り登録させていただきました。
いつもあしあとをありがとうございます。
前々から拝見させていただいて
タイミングを見計らうなわとびの輪に入るように
いまやっとリンクのボタンが押せたところです♪

nassie
2010年12月22日19:16

ありがとうございます。素敵なページだなと拝見していました。こちらからもどうぞよろしく。

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