『わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ 土屋政雄訳
 宇宙空間を遠く隔てたところに確かに目的の天体がある。

 宇宙船が進むに連れて、この目的の天体との間にある一枚一枚のベールが剥がされ、確かに近づいていくが、

 ベールが剥がれても何も新しくは見えて来ない。

 しかもベールが剥がされても、その時は、何が剥がされたのか、その中身すら必ずしも明らかではない。

 ただ、確かに少しずつ、少しずつ近づいていることは分かる。依然として目的の天体は、遠く、遠く、おぼろげな姿のままではあるが。

 一語一語、一文一文が大変緻密に構成されていて、かつ一つ一つの表現がとても繊細で、美しい。

 平易で読みやすいのに、その存在感は圧倒的だ。

 読み進むうちに、何度も何度も涙がこぼれそうになる。

 にもかかわらず、最後に、突然に目的地にたどり着き、すべてのベールが剥がされたとき訪れる大きく、深い驚きと感動。

 この感動をどう表現したらいいのか。

 いや、ただただ読み直せば良いのだろうが、

読み終えてすぐ読み直したいと思う小説は、

そう数多くあるものではない。

※『日の名残り』 (Les Vestiges du jour) も読んでみたくなっちゃいました。フランス語版はどこかで手に入れるとして、帰国までオアズケかな。
 村上春樹にはない『感動』がありますね。これを感動と呼んでいいのかどうか、分かりませんが。まだ1冊しか読んでいないけど。

コメント

yasai
2010年10月3日19:26

色々教えて頂き深謝 読んでみます

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