自転車派列伝ーその3
 C君は別の大学の学生だ。

 背が高く端整な顔立ちで、さあゼミ長を決めようと言うときに

「俺にやらせてください」

 と積極的に買って出た、頼もしい学生だった。

 ところが、いわゆる報・連・相が出来ず、

毎年夏休みに合宿をやるのだが(春にもやるが春は上級生の責任で)、

準備が整わず(実施だけは何とか出来たが)『はちゃめちゃ』で、

合宿後、クー・デ・タが起きてゼミ長交代になってしまった。

 それでもめげず2年間みんなと仲良くやった打たれ強い学生だった。

 今、世界的電機メーカーで働いているはずだが、ちょっと心配は心配だ。

 大学まで30㎞近くを自転車通学していた自転車少年だった(毎日では無かったようだが)。

 毎年秋には、ゼミ対抗野球大会が開かれていて、我がゼミは優勝1回、準優勝2回を誇る強豪の一つと目されている(頭より体を動かす方が得意)。

 この年には土佐高校でレギュラーだった学生がおり、また、他にも高校野球強豪校出身者もいて、下馬評も高かったのだが、確かベスト4あたりで敗退。

 残念会に向かった。

 場所が決まっていないので、どこかファミレスでもと車数台に分乗して球場を出発した。

 C君は自慢の自転車で後ろから追いかけてきていたが、そのうち、手を振りながら先頭に出て、そのまま走り去ってしまったそうだ。

 その後、ここら辺でとファミレスに入ったが、C君の姿はずっと先に行ってしまってもう後ろ姿も見えない。

 駐車場でだいぶ待ったが帰って来ないので仕方なく、みんなで食事をしていたそうだ。

 今ほど携帯電話が一般化しているときでは無かったが、何人かは持っていた。

 食事がだいぶ進んだ頃、10㎞ほど離れた交番から電話が入って、

「伸びて倒れている学生がいるので迎えに来てくれ」

との連絡があったそうだ。

 後続の車が一台も着いて来ていないことに気づかないままぶっ倒れるまで自転車をこぎ続け、

おかしいともなんとも思わず前へ前へとこぎ続けたC君は、

今も同じように前へ前へと世界中を走り回っているだろうか。


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